【迷走の通院記】40度の熱と、大学病院という名の「白い迷宮」

生活

こんにちは、まよいです。

普段、僕は「試行錯誤は人生のスパイスだ」なんて格好いいことを言っていますが、それはあくまで「余裕があるとき」の話です。心身ともに追い詰められた人間が、知識ゼロで試行錯誤をするとどうなるか。

今回は、僕が一人暮らしの部屋で「死」を意識し、そして日本の医療システムの構造を、身を以て(物理的に)学んだ時の記録をお話しします。


1. 牙を剥いた「沈黙の要塞」

数年前のある冬の日、僕はかつてない異変を感じて目を覚ましました。 喉を焼くような痛みと、関節の一つひとつが軋むような違和感。体温計を脇に差し込むと、電子音が無慈悲に「40.2度」という数字を弾き出しました。

「あ、これ死ぬやつだ」

一人暮らしの六畳一間、頼れる相手はいません。冷蔵庫には賞味期限の切れた納豆と、飲みかけの炭酸水があるだけ。普段、健康だけが取り柄の僕は、病院なんて小学校の予防接種以来、ほとんど縁のない場所でした。

知識がありません。何科に行けばいいのか、保険証以外に何が必要なのか。 でも、意識が遠のく中で、僕の「行き当たりばったりな脳」が出した結論はこうでした。

「すごい熱なんだから、すごい病院に行かなきゃダメだ」

家の近くには、地元でも有名な、威厳に満ちた「〇〇大学病院」がありました。巨大な白い巨塔。あそこに行けば、最先端の医療が僕を救ってくれる。そう信じて、僕は震える足でコートを羽織り、タクシーに飛び込みました。

2. 受付カウンターという名の第一関門

朝の8時半。大学病院のロビーは、すでに戦場でした。 自動ドアが開いた瞬間、消毒液の匂いと、大勢の人の熱気に圧倒されます。40度の熱がある僕の目には、ロビーを歩く人々がすべて「残像」のように見えていました。

ふらふらと受付カウンターへ辿り着き、かすれ声で告げました。 「熱が……40度あって……」

受付の女性は、機械的な手つきで書類を差し出しました。 「初診ですね。紹介状はお持ちですか?」

「しょうかいじょう……?」 聞いたことはあります。でも、そんなもの、今の僕が持っているはずがありません。 「ないです」と答えると、「では、選定療養費として別途数千円かかりますがよろしいですか?」と。

当時の僕は、それが何を意味するのかも分からず、「お金で解決できるなら……」と力なく頷きました。この時点で、僕はすでに「間違った扉」を叩いていたのですが、熱に浮かされた頭では、そこが聖域に見えていたのです。

3. 永遠の午後――「待ち時間」という名の修行

そこからが、本当の地獄でした。

「あちらの待合室でお待ちください」 指示された場所に行くと、そこには溢れんばかりの人、人、人。 1時間、2時間。時計の針は無情に刻まれますが、僕の名前は一向に呼ばれません。

40度の熱がある人間にとって、プラスチックの椅子は鉄板のように硬く、冷たい。 僕は次第に、自分が何をしにここに来たのか分からなくなってきました。 「僕は、ここで孤独に死ぬために、タクシー代を払って来たんだろうか?」

意識が朦朧とする中で、周囲の会話が聞こえてきます。 「おじいちゃん、今日は検査だけだからね」 「予約、3時間もズレてるわよ」

予約……? 検査……? そう、大学病院とは、高度な治療や特殊な検査を必要とする人々が集まる場所。 ただの(と言っては語弊がありますが)突発的な高熱で、紹介状も持たずに駆け込むような場所ではなかったのです。

結局、僕が診察室に呼ばれたのは、窓の外がオレンジ色に染まり始めた、夕方の4時過ぎでした。 朝イチから数えて、実に8時間近く。僕は「ただ待つ」という行為だけで、体力のすべてを使い果たしました。

4. 3分間の診察と、友人の爆笑

ようやく会えた先生は、パソコンの画面を眺めながら、僕の喉を一瞬だけ見て言いました。 「あー、風邪ですね。インフルエンザは陰性です。お薬出しておきますね」

診察、わずか3分。 精算を終え、薬局で薬を受け取り、再びタクシーで家に辿り着いたときには、夜の7時を回っていました。 1万円近い出費と、丸一日の時間。得られたのは「風邪ですね」という言葉と、数粒の解熱剤。

後日、熱が下がり、少し動けるようになった僕は、医療に詳しい友人にこの顛末を話しました。 彼は、僕が話し終えるか終えないかのうちに、腹を抱えて爆笑し始めたのです。

「まよい、お前マジかよw 40度の熱で大学病院? 勇者かよ!」 「え、だっておっきい病院の方が安心だろ?」 「バカだなぁ。そういう時はまず『街の小さな診療所』、いわゆる町医者に行くんだよ。待ち時間は短いし、診察代も安い。大学病院は、町医者が『これは手に負えない』って判断した時に、紹介状を書いてもらって行く場所なんだよ」

彼は涙を拭きながら続けました。 「お前がやったのは、コンビニのパンが買いたいのに、わざわざ一流ホテルのフルコース会場に行って、順番待ちの列に並んだようなもんだよw」
友人の例えは相変わらずク○だと思いました。

5. 「知らない」というコスト

その言葉を聞いたとき、僕は情けなさと同時に、妙な納得感を覚えました。

僕は「行き当たりばったり」で生きています。 それは自由で楽しいけれど、時として「知識がない」ということが、これほどまでに過酷なコストを強いるのだと。

あの8時間は、僕にとっての「社会科見学」でした。 日本の医療がどう成り立っているのか。 「でっかい」=「正解」ではないということ。 そして、どんなに孤独で死にそうでも、スマホで「病院 選び方 初心者」と検索するくらいの心の余裕は持つべきだ、ということ。

この経験を経て、僕の部屋の救急箱には、解熱剤と一緒に、近所の内科クリニックの場所を記したメモが入るようになりました。

もし、今この記事を読んでいるあなたが、かつての僕のように「健康だけが取り柄の素人」であるなら、どうか覚えておいてください。 体が燃えるように熱い時、あなたの味方になってくれるのは、白い巨塔の権威ではなく、角の曲がり角にある「〇〇内科」という小さな看板のついた、あの古びた診療所かもしれません。

僕の試行錯誤が、誰かの「8時間の待ち時間」を救うことを願って。

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